山国は美味しいお魚が食べられないと、東京にいた頃はさんざんこき下ろしていたのに。
お魚が好きかどうか訊いておいて、などと言われてはげんなりした。

二人して、週に一度来るか来ないかの相手のために、張り切っているようでさえあった。
わびしい女所帯の娘に、土地の有力者の息子が通ってくるのを、いそいそと歓待する…いつの時代の話なんだ。

母の心情は、そばにいる身として分からなくもないから、なにも言えなくなる。

閉塞的で寂れつつある故郷を捨てて、すっかり東京の人になったはずだったのに。
今やみじめな出戻りだ。パート先のスーパーでは、日々知った顔を接客していることだろう。

ネイルやパーマを欠かさなかったおしゃれな母親が、化粧気もなくレジ打ちでひび割れた爪をして、ため息を吐いている姿を目にするのは辛かった。

洸暉は洸暉で、無口で無愛想なのは変わらないのだが、奇妙な如才なさを要所で発揮していた。
母屋から回ってきたもので悪いんですけど、一人ではもて余すので…と秋口に入ったある日には、大ぶりの紙袋を渡してきて、母親が恐縮しつつ受け取るという一幕があった。