わたしの髪はわたしのもの。切ろうとどうしようと、わたしの勝手だ。
あんたに引っ張られるためにあるわけじゃない。

ほんの小さな勝ち味。たとえるなら、いじめっ子の後ろに回ってあかんべーをしているくらいの、仕返しともいえないものだ。

大きめの唐揚げを口に押しこみ、力をこめて噛みしめる。

かたわらでパンを(かじ)る洸暉が、ふと手を伸ばしてくると、短くなった陽澄の髪をくるくると指に巻きつけて(もてあそ)びはじめる。

小学生の男子じゃないんだから、人の髪で遊ぶな。
いや、高校生男子らしいことも、しっかりやってるけど…

「早く伸ばせよ」

髪は縮まない。ゆっくり確実に伸びるだけだ。
胸のうちでつぶやく。
自分にも彼にも、自由にはできない。