彼がタバコを吸い終わるまで、陽澄は本棚をながめ、どうでもいいことだけを考え続けた。

灰皿を机に戻すと、窓を閉めカーテンも閉めている。
そういえば前回窓はどうなっていたのか、記憶をさらってもなんの情報も見当たらない。

佐澤洸暉がこちらにやってくる。
腰をかがめて腕をとられ、立つよう促された。
黙って立ち上がると、そのまま腕を引かれてベッドに導かれる。

そういえば幼い頃、注射のときにぐずったりしない子だったな、などと身を横たえながら思う。
痛いし怖いけど、泣いても暴れてもどうせ逃れられないのだから、我慢して早く終わらせたほうが楽だと、我ながら聞き分けのいい子どもだったのだ。

しかし、嫌なことは嫌だと、最後まで力の限り抵抗するのと、どちらのほうが誇り高いあり方なんだろう…

つらつらと思考をさまよわせたところで、結局のところ陽澄にはもう抗う気力がなかった。
力では到底かなわないことは思い知らされたし、この上縛られるのはごめんだ。