惣菜パンはほどなく彼の腹におさまり(パン一個で足りるんだろうか)、空の袋をわきに放る。

「好きって言えよ」

唐突としかいいようがない台詞だった。

「…それを言ったら、嘘になるよ」
もはや今さら、人としての尊厳を奪われたも同然なのだから、「す」と「き」の音を続けて口にするくらいなら、できそうな気がした。
だからといってそんな言葉に、なんの意味があるんだろう。

そうか、と気のなさそうなつぶやきが聞こえてくる。

彼の方を向く勇気はなくて、斜め上に視線を投げる。
秋の空は高いとかいうけど、九月の空ってどうなんだろう。どこかのっぺりした水色で、雲もへなへなと覇気がない、ように眼に映る。

「今日は何限?」

「…五限」
嘘をついてもしょうがないので、正直に答える。

佐澤洸暉が小さく鼻を鳴らす。
「明日は?」

「…たしか六限」
まだ時間割が正確に頭に入っていないのが半分、ごまかしたいのが半分だ。

ふむ、と隣でつぶやいている。

下校時間がかち合う日を知って、なにをしたいのかは、もちろん訊かない。
横目に映る彼は、地面の影が人より淡いような気がする。もちろんそんなはずはないのだけど。