なんの役を押し付けられているのか分からないまま、また彼の自転車の荷台に乗せられて、学校へ向かっている。

佐澤洸暉と一緒に下校し、一緒に登校している。
自分の健全な高校生活が喪われてしまったことを、悲しいと思うような感情の余地はなかった。

感情を麻痺させろ、なにも感じないように、これ以上傷つかないように。

教室に入ると、なかば予想していたことだが、誰もが見てはいけないものを目にしたように、慌てて陽澄から視線をそらした。

それでいい、と思う。むしろ気が楽だ。誰とも話したくなんかない。

ふと、水族館のイメージが脳内にふくらんだ。
目の前には巨大な水槽がある。その中で魚たちが回遊している。
すぐそこにあるのに、分厚い透明なガラスに隔てられている。そしてけして交わることがない世界だ。

その現実を受け入れたはものの、授業の合間と、そして昼休みは時間をもて余してしまう。
弁当を手に、はじかれるように教室を出た。
ざわめきに満ちた教室のなかで、一人ぼっちで食べる勇気はなかった。