たやすくすべてを明け渡す母と祖母の前で、自分がどのくらいのあいだ硬直していたのか、もはや分からない。

「陽澄もご飯、食べるでしょ」
母親がなにかを言っているが、音が耳を通過するだけで意味が飲みこめない。

母と祖母をなじる気力もない。立っているのがしんどくて、だから自分の椅子にへたりこんだ。

いそいそといった様子で、母が自分の前に朝ご飯を配膳する。

味などするわけがない。形ばかりつつく陽澄の向かいで、佐澤洸暉が悠然と食事を進めている。
旧家の跡取り息子なだけあって、箸使いや姿勢などの所作はやけにきちんとしていた。

「ごちそうさまです」と彼が箸を置くタイミングで、母が女中のようにお茶を出す。
彼がかるく頭を下げて、湯飲みを手にする。

みんな何をやっているんだ…

“あのとき”は必死で、これは自分の身に起きていることじゃないと思いこもうとした。意識をどこか遠くへ飛ばそうとしていた。

今は、できの悪いホームドラマの中に放りこまれた心地だ。
自分だけが台本を知らされていない。