「須田さんは…何年目だっけ?」
ふと、竹原が聞いてきた。

「四年目です」

そうか、と彼がつぶやいて、クマの浮いた目元をほぐすように、指を押し当てる。
「こういう仕事をしていると———」
竹原が指を離して口を開いた。視線を自分と陽澄の中間くらいにただよわせて。

「折り合いのつけ方を身につける必要がある。いつもいつも手術が成功するわけじゃない。否応なく人の死と、命と向き合わなけりゃいけないから」

陽澄はただ黙してうなずいた。

「患者さんの死に、そのたびに絶望していては身が保たない。かといって人の心を無くすわけにもいかない。
だからいうなれば、感情のスイッチを必要に応じてオンオフできるようになっていく。口で言うほど器用にもなりきれなくて、葛藤は続くけどね」

「おっしゃる通りです」
控えめに重ねる。

でも須田さんは…とためらいがちに竹原が言葉を継ぐ。
「新任のときから、それを知っていたように、僕には見えたんだ。つまり———感情のスイッチの切り方を」