「きっと、梢は川邊部長に無理矢理脅されて、その関係を迫られたんだろうな」


近藤龍馬のその言葉を聞きながら、
この人みたいにそう思っている人もうちの会社に居るのだろうと思った。


いや、そう噂されているのかもしれない。


「でも、次期社長と言われている川邊部長。
その奥さんが結婚詐欺とか、それって…」


そう、濁された言葉。


私がこの人の脅しを無視出来なかったのは、
一番が、それ。


篤さんに迷惑を掛ける事を恐れて。


今もテーブルの上に出された、昨日の昼休み見せられた、その私とこの人のLINEのやり取り。


本当に、これで私が犯罪者になるのかは半信半疑だけど、
とにかく、この事で騒ぎを大きくされる事だけは困る。


私自身、もう噂の的になりたくないのもあるが、
会社での篤さんの立場を考えると、本当に困る。



「今さら、もう梢とやり直そうとか思ってはないから」


なら、何?とその近藤龍馬を睨んでしまう。



「ここのホテルに部屋取ったから」


そう言って、テーブルの上にカードキーを置いた。


「それって、どう言う事?」


その意味が分からない私ではないけど。


「一度、俺と関係を持つならば、
梢を訴えるとか、バカな事はしないから」


よく、妊娠している女にそんな事が言えるな、と思う。


まだ見た目で私が妊娠しているのが分からないから、なんとも思わないのかもしれないけど。


それに、この人の子供じゃないし。


避妊しないで出来る女ってくらいにしか、
この人は思わないのだろうな。