「こうやって梢とちゃんと話すのも、久しぶりだな」


目の前でそう言うのは、
元カレ近藤龍馬。


私は約束通り、今日の19時に指定されていたMホテルの喫茶店へと来た。


正直、今は篤さんの事で頭が一杯で、こんな人の事も、もう結婚詐欺で訴えられようがどうでもいいのだけど。


こうやって来てしまったのは、
他の事で気を紛らわせたかったのかもしれない。


「梢の噂聞いたけど」


その"噂"って言葉に、嫌な予感しかしない。


「あれなんだよな。処女だったって。
だから、あれほど俺の事も拒んでいたんだ。
言ってくれたら、良かったのに。
てっきり、俺の事を好きじゃないから、拒むのだと思っていた」


てっきりも何も、その通りなのだけど。


この人を好きじゃないから、体を許さなかった。


というより、私はこの人とキスすらしていない。


この人との最後のデートの時、
夕食の後、ホテルへと誘われた。


それを、私が断ったら。


「じゃあ、俺達もう別れよう」


そう、強気な態度で言われて。


「うん。分かった」


そう言って、私は目の前を走っていたタクシーを停めて、それに飛び乗った。


それで、終わったこの人との関係。


それなのに、それからもしつこくLINEが来るし。

それだけならブロックで済むのだけど。


同じ会社だから、会う度にしつこく話し掛けられたり。


とにかく、しつこい。


現に今も。