「うーん。ほら?
お前も今の篤さんの事、ちょっとは聞いてるだろ?
同じ会社なら。
篤さんの父親が凄い人で、その良い家に引き取られて、
けっこういい大学行ってるとか、誰かから昔そんな事聞いて。
それ聞いて、もう俺みたいなのが篤さんに関わらない方がいいかって思ったんだよな。
その時、俺もイタリアに居て、あんま詳しく篤さんの事知らなかったんだけど」


兄の言ってる事も、分からなくはないけど。


素行の悪い自分が、今の篤さんに関わって迷惑掛けたくない、と。



「けど、お兄ちゃん、今はちゃんと働いているし、今なら別に篤さんに迷惑掛けるような事ないでしょ?」




「けど、篤さんはもう別世界の人だから。
まさか、ベリトイの御曹司と迄は知らなかったから、
お前に聞いた時は、マジでビックリしたけど」


兄の笑うその顔を見ながら、私は改めて、篤さんは自分とは遠い人なのだと思い知らされた。


「お前、昔から思ってたんだけど。
篤さんの事好きなのか?」


その突然の兄の問い掛けに。


「好きだよ」


誤魔化す事なく、そう言ってしまった。


「そっかぁ」


兄はそれ以上その事で何も言う事はなく。


それが、暗に諦めろ、って言われているような気がした。