「あれですよね。
うちの会社の人達、篤さんの事本当に好き勝手言って腹立つんです。
私も篤さんの事、お兄ちゃんから聞いてるくらいしか知らないけど。
でも、クスリやってるとか前科があるとか、ヤクザと繋がってるとかヤクザだとか、本当に滅茶苦茶」
「噂って、んなもんじゃねぇのか?
ある事ない事、話が大きくなって」
篤さんは気にしてないのか、
その表情はケロっとしている。
「でも」
「実際、その噂の中には本当の事もあるし、しょうがねぇ」
「篤さんが女の人を騙して、AVに出したり風俗に売ってるとかも言われてますよ?
そんなの、根も葉も無さすぎだし!」
「ああ。あれだ、昔一時期AV関係の事務所で働いてたからな。
その辺りからの噂だろ。
うちの会社に入社したばかりの時、喫煙所で一緒になったおっさんに、んな話をした事あったな」
篤さん、AVの事務所で働いてたんだ…。
なんとなく、アウトローな匂いがするその職業。
「そのAV事務所の社長が、ヤクザの息子と友達だったんだけど。
俺も社長通してその人と仲良かったから…。
んな話迄うちの会社の奴にはしてねぇけど、
ヤクザと繋がってるのも、まあ、当たってんじゃねぇのか?
その人は、ヤクザの息子なだけで、ヤクザじゃねぇけど」
そうやって聞くと、篤さんはそれなりに危険な人物ではあるのだろうか?
きっと、私も昔の篤さんを知らなかったら、
他の社員の人達と同じように、この人を怖がっていただろう。
「篤さん、なんでうちの会社にってか、
その、そんな跡取りみたいになったんですか?」
元々の姓である、北浦の名を捨てて。



