昼休み、社内の食堂に行くと、
その噂の的の彼は一人カツカレーを食べていた。


けっこう込み合っている食堂なのに、
彼と同じテーブルには他に人が居ない。


彼を見掛ける度、いつも思いきって同じテーブルに座ってみようか?と頭には過るけど、
そんな勇気もなく。


微妙に近い場所に座る。



「あー、やっぱりB定食にすれば良かったかな?」


私を追いかけるように私の目の前に座ったのは、
羽鳥ミヤコ(はとりみやこ)。


彼女とはこの会社に入社してから知り合い、同期で同じ部署だという事でとても仲良くなった。


ミヤコとは、同じ総務部だけど、
彼女は経理課で私は庶務課なのだけど。



「私もA定食が良かったな。
取り替える?」


その提案に、ミヤコはうんうん頷く。


私は自分の酢豚メインのB定食と、
ミヤコのエビフライのA定食と取り替える。


「梢(こずえ)ありがとう」


私の名を呼ぶ笑顔のミヤコを見ながら、
今日の夜は酢豚のお惣菜でも近所のスーパーで買って帰ろうか、と思った。


本当は、夜にエビフライかな、と思っていたので、
取り替えた事は大して礼を言われる事でもないけど。


それくらい、今日の酢豚とエビフライの日替わり定食の二択は、魅力的だった。


なのに、彼はその二択ではなく、
通常メニューのカツカレーを頼んでいる。