「じゃあお前から。
立て」


そう言って、高月さんの前に篤さんは立った。


高月さんは、ゆっくりと立ち上がる。


「お前、さっき梢に酷い事言われて振られたって言ってたが、なんて言われた?」

そう訊く篤さんの声は、何処か優しい。


「俺のLINEのメールがキモいって」


高月さんのその言葉に、ぼんやりとこの人から送られて来ていたLINEを思い出したけど。


具体的には思い出せないけど、
赤ちゃん言葉みたいなので、"だいちゅき"とか送って来ていたなと思い出した。


当時、そのメールを気持ち悪いと思ってそう言ったのだろうけど、
ちょっと、酷かったかな?と思ってしまった。


「それは、グサッと来るかもな。
男って、けっこうそういう所デリケートだしな」

篤さんも高月さんに、ちょっと同情している。


「実際、その梢ちゃんの言葉に傷付いて恨んでいたというより。
その後、何人かの女性とお付き合いしたんですけど、
その梢ちゃんの言葉がずっと引っ掛かってて。
付き合った相手にちょっとしたLINEの返事するのも、何時間も悩んだり…返せなかったり。
それが理由で、振られる事もあって…。
本当に、梢ちゃんのその言葉がトラウマになってて…そんな感じで…。
半年前に別れた子、俺けっこう好きだったんだけど」



「それは、ごめんなさい」


自然と、私の口からそう出た。


この人と付き合っていたのは、大学一年生の時でかなり前なのに、何故今さらと思っていたけど。


そうやって、何度も私の言葉を思い出す機会があって、
ずっと恨んでいて。

そうやって私に恨みを晴らそうと思い立つ出来事が、
この人にあったのだろうな。