久志さんは、ゆっくりと私の方へと歩いて来る。


思わず、逃げよう、と後ずさってしまった。



篤さんは、未央さんと相変わらず楽しそうに話していて、
今は、そこにケイさんが加わっている。


「篤君の奥さんの、梢ちゃんだよね?」


「あ、はい」


「俺、海宝(かいほう)って言います。
俺も篤君とはちょっとした知り合いなんだけど。
見ての通り、俺の奥さんの方が篤君と仲良くて、今日も招待されたんだけど。
ほんと、あの二人の仲良さに妬けるよねぇ」


「…未央さんは、篤さんとはどんな知り合いなんですか?」



この海宝久志さん、怖い人だな、と思いながらも、
そうやって訊いてしまう。



「未央さんが大学受験の時、篤君も同じく大学受験だったみたいで。
その時、未央さんが家庭教師して貰っていた夫婦に、篤君も時々勉強を教えて貰っていたみたいで。
その家庭教師の夫婦の家で、未央さんは篤君と仲良くなったって言ってたけど」



そうなんだ。


てっきり、篤さんは斗希さんに勉強を教えて貰っていたんじゃないかと、勝手に思っていた。


もしかしたら、それも当たっているのかもしれないけど。


篤さんと未央さんは、そんな形で大学受験という苦楽を共にした同志なんだ。