1.春は嫌い

私、櫻井美琴は春が嫌いだ。
一般的には、春は出会いの季節!
だから好き!と言う人が多い。
でも、私は嫌いだ。なぜかというと、
私は新しい出会いが欲しくない。いや、
新しい環境、新しい人間関係が単純に
怖いだけだ。不安で心配なだけ。
"嫌なことから逃げたい"昔からそうだ。

テストや体育、これら嫌なことから
逃げ出したい。そのために何度か
学校を休んだこともあった。
昔のことだけど。

でも、体が強くないのは本当だ。
小さい頃から、熱やけいれん、救急車は
まあ、慣れたものだ。
ちょっとした立ちくらみや頭痛から
足が痺れて動かなくなる時もたまにあった。

今日は二学期最初。
今度こそ、一人くらいは友達が欲しい!
今年こそ、彼氏を作ろうー!!
って思うのが多分普通だろうけど、
私はそんなこと一ミリも思わなかった。
ただ、どうか、目立たないまま過ごしたい。
平穏な日々を残りこれからも過ごしたい。
と思うだけだった。

朝は普通に起きることができた。
嫌なことが待っているというのに。
まあ、昨日昼寝というか、
夕寝したからかー。

始業式。
眠そうにあくびをしている人や
退屈そうに友達とおしゃべりしている人、
先生の中でも、眠そうにあくびを
している人がいた。これは少し笑った。
あぁ、この先生もこの時間退屈なんだー。って。

教室に入って、明日以降の予定を確認した。
ホームルームという形で。

ホームルームの話が終わって、
帰りの準備をしていると、
一部の女子が男子を誘って
何か話している。
どうやら、放課後遊びに行くみたいだ。
まあ、私は誘われるわけないから。
そう思って、帰りの準備を進めていたら、
一人の男の子が私に歩み寄ってきた。
その男の子はクラスだけでなく、学校中で
人気者の春田樹|《はるたいつき》くん。
(名前を聞いたとき、優しそうな人
という印象をもったのを覚えている。)
クラスの一部の女子が狙っているという
話を聞いたことがある。たしか、
クラスで一番のキラキラ女子、水瀬あかりさん。

私は、女子トイレでこの話を聞いたとき、
へぇー。やっぱみんな恋するんだー。
でも、私には縁のかけらもない話。
関係ない話だから。あまり気にせずいた。

その春田くんが、『櫻井さんは、放課後空いてる?みんなでカラオケ行こうって話があるんだけど、どうする??』
私はカラオケがとても大好きだ。
でも、いつも本当の心を許している
友達や家族としか行かない、そんな場所だ。

カラオケは行きたい。
でも、クラスの人とは緊張してしまう。
もしかしたら、緊張して上手く歌えなくて、
余計話しづらくなってしまうかも。
そう思った私は、『誘ってくれてありがとう。
でも、実は私あまりカラオケ得意じゃなくて。』
春田くんは『そっか。わかった。
じゃあ、またね!』と皆のいる方へ
戻っていった。

私は、これでいいんだ。と自分に言い聞かせた。
だって、カラオケはまた家族と行けばいいし、
クラスで行くってことは、多分春田くん狙いの
水瀬さん含めた女子もいると思うから。
そう思うと、怖くて行けない。

私から見た水瀬さんは、容姿端麗。才色兼備って感じのモデルさん並みの美人で、明るくて、
誰にでも優しく接してくれる完璧な人間。
そんな印象だった。
そんな人となんて‼︎
考えただけで、お似合いだ。お似合いすぎる。
芸能人のカップル並みに話題にもなるだろう。