何だか催促しているみたいなのが自分でも恥ずかしくて、言っていることがしどろもどろになってしまった。

「あっ、別に感想を催促してるとか、そんなんじゃないの! だからあんまり気難しく考えないでほしいんだけど……」

『……ああ、そういえばお伝えしてませんでしたっけ。ステキでしたよ。特に、大きなリボンのついたブラウスが可愛らしくて、絢乃さんによくお似合いでした。お化粧もなさってたんですよね。ちゃんと〝トップレディー〟らしく見えましたよ』

「ありがと。――どうして朝のうちに言ってくれなかったの?」

 感想を聞けたことは嬉しかったけれど、わたしは拗ねたように口を尖らせた。どうせなら、そういうことは本人を目の前にして言ってほしかった。

『すみません。なんか照れ臭くて……。僕自身、こういうシチュエーションにはあまり慣れてなかったもので』

「…………そう」

 母の想像はズバリ当たっていた。よく言えば誠実、ひどい言い方をするならバカ正直に弁明するところは、実に彼らしかった。そこまで正直に言う必要はなかったはずなのだけれど。

「……でね、会議のことなんだけど。わたし、多数決で無事に会長就任が決まったの。お祖父さまの弟さんっていう人も候補になってたんだけど、村上社長がわたしの味方についてくれてね、形勢が一気にわたしに傾いたの!」

『そうですか! おめでとうございます! 就任発表はいつですか?』

「明後日の株主総会で、正式に発表されることになったわ。というワケで、貴方もその日から秘書室の一員よ」

 このことも、会議で決まったことだった。彼はわたしの会長就任と同時に、会長付秘書に任命されることになっていたのだ。

『いよいよですね……。僕、全力であなたをお支えします! よろしくお願いします、絢乃会長!』

「ええ。一緒に頑張りましょう! よろしくね!」

 通話を終えたわたしには、〝闘志〟ともいえる強いエネルギーが(みなぎ)っていた。
 わたしたちにはまだ〝敵〟がいたし、世間の評判とだって闘わなければならない。何より、大財閥の運営という大仕事こそが、わたしにとっては闘いだった。父が遺してくれたこの務めを、わたしはこの先立派に果たしていかなければならないと思った。

 わたしと彼の本当の勝負の日々は、ここから始まったのだった。