「ゴメン! 今年はムリだわ。パパがあんな状態だし……」

 父がいつどうなるか分からない状態だったので、その年のわたしはクリスマスツリーを見に行くどころではなかった。
 でも、察しのいい彼女は、それで気を悪くした様子もなく。

「……だろうね。あたしも、今の絢乃ならそう言うと思ったんだぁ。じゃあさ、今年は絢乃ん家でクリパしない? パパさんにも参加してもらってさ」

 わたしが断ると、里歩は代替(だいたい)案としてそんな提案をしてくれた。
 家でのパーティーなら、わたしは外出する必要もないし、闘病中の父も気兼ねなく参加できる。――なかなかのグッドアイディアだとわたしも思った。

「ああ、それいいかも! さっそくパパとママに都合訊いてみるわ!」

 というわけで、わたしはその場で――まだ学校にいたのだけれど――、母にメッセージで里歩から聞いた話を伝え、クリスマスイブに家でパーティーをすることはできるのか訊いてみた。
 すると、母から来た返信はこうだった。

『そういうことなら大丈夫。パパもきっと喜んでくれるわ。
 イヴは我が篠沢邸でクリスマスパーティーね! 私も楽しみだわ!
 里歩ちゃんに、「ありがとう」って伝えておいてね。』

「――ママが、イブのパーティーは大丈夫だって。里歩に『ありがとう』って伝えて、って」

「えっ、ホント? オッケー! じゃあ、今年のクリスマスはそういうことで」

「うん。ウチのコックさんたち、張り切ってご馳走作ってくれると思う。ケーキも準備しなきゃ! わたしとママで作ろうかな……」

 実は、わたしは料理が得意で、学校での家庭科の成績もよかった。特にお菓子作りについては、スイーツ好きが高じて自分で作るようになり、腕もグンと上達したのだ。

「おっ、絢乃の手作りケーキかぁ。久しぶりだな……。アンタの作ったスイーツってどれも美味しいもんね。あたしも楽しみ♪」

 里歩も、わたしの手作りスイーツのファンの一人で、バレンタインデーには友チョコを交換いたりしていた。――彼女はあまり料理が得意ではないので、手作りではなく市販のチョコレートだったけれど。

「うん! 腕によりをかけて美味しいケーキを焼くから。楽しみにしてて」

 この年のクリスマスは、父と過ごす最期のクリスマスだった。わたしは里歩にはもちろん、父に自分の作ったケーキを食べてもらいたかったのだ。