――その後、父の一周忌を済ませ、高校を卒業した日の夜、わたしと彼は我が家のゲストルームで初めて結ばれた。
 やっと彼と本当の意味で繋がりあえたような、わたし自身もひとつ大人になれたような、幸せな夜だった。

 そして、結婚準備が本格的にスタートし、わたしたちは仕事の合間を縫って式場の予約や衣装のオーダー、式場内のガーデンレストランでの結婚披露パーティーのお料理決め(具体的にはビュッフェテーブルにどんなメニューを並べるのか)、結婚指輪の注文……と、準備に追われることとなった。

 彼のご両親にも結婚前のご挨拶をした。

 お父さまの(あつし)さんは温厚そうな男性で、五十五歳。銀行の支店長さんだと伺っていたので、もっと神経質そうな人を想像していたのだけれど、まったく違っていた。
 お母さまの()()()さんも優しそうな女性で、年齢はお父さまの二歳年下だと聞いた。保育士さんのお仕事に未練はあるものの、「孫ができたら私が家で面倒を見るの」と笑顔でおっしゃっていた。
 本当に素晴らしいご夫婦で、この人たちがわたしの義理の両親になるのかと思うとワクワクした。
 ただ、その場には悠さんはいらっしゃらず、貢に事情を訊くと、「恋人ができたので一緒に暮らしている。もうじき籍も入れるらしい」とのこと。どうやら、彼女さんはオメデタらしい。そこでキチンと責任を取るのが、女性に優しい悠さんらしいなとわたしは思った。

 ――そんなこんなで、わたしと貢は今日という晴れの日を迎えた。

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「――で、絢乃さん。最終確認なんですけど。本っっ当に僕でいいんですね? 僕と結婚して後悔しませんよね?」

「まだ言ってる。いい加減クドいわよ、貢」

 わたしは苦笑いしながら、彼のいで立ちを眺めた。真っ白なタキシードに、彼の引き締まった顔が映える。彼の胸元に結ばれているループタイは、なぜかブルーだった。

「……ねえ、それってもしかして〝サムシング・ブルー〟になぞらえてるの? でもあれって、花嫁のための(ゲン)(かつ)ぎなんじゃ……」

 わたしの今日の髪飾りにもイヤリングにも、〝サムシング・ブルー〟に(あやか)ってさりげなくブルーが取り入れられている。

「まぁ、そうなんでしょうけど。僕は婿入りする側なんで、嫁入りするのと同じような気持ちで……と思いまして。おかしいですか?」

「ううん、別におかしくないわ。ステキよ、よく似合ってる」

 彼の謙虚すぎる答えに、わたしはより一層彼への愛おしさが増していく。

 実は衣装をオーダーする時、わたしのドレスよりも彼の衣装選びの方に時間がかかったというのは何とも面白い話である。彼が、黒っぽいタキシードは着たくないとゴネて衣装担当のスタッフを困らせたのだ。