「そうだったんですか……。知りませんでした」

 わたしの告白を、彼は惚けたように聞いていた。わたしはすぐに彼から離れた。

「――そうだ、大事な話! 貴方はわたしと結婚したら、ウチに一緒に住んでもらうことになるんだけど。それは大丈夫ね?」

 我が家に婿入りする時の絶対条件が、代々(というか父と母の代だけだったのだけれど)「篠沢邸での同居」となっているのだ。
 彼は我が家に来たこともあるし、我が家には部屋があり余っているので、家族が一人や二人増えたってどうってことはない。あとは彼にそこまでの覚悟ができているかどうかだけだった。
 とはいっても、彼は(しゅうとめ)になる母とはもう一年近く一緒に働いていたわけだし、あと我が家にいるのは住み込みの使用人だけだったのだけれど。

「もちろん大丈夫です。結婚前になったら、今住んでいるアパートは引き払います。あと、僕の両親にもお会いして頂きたいんですが」

「分かってるわ。まぁ、悠さんとはもう知り合いだけど、ご両親にもご挨拶に伺うわね」

 彼と悠さんを育てたご両親には、お会いするのがすごく楽しみだった。職業は伺っていたけれど、実際にどんな方たちなのかはお会いしてみないと分からなかったから。

「はい。両親にも僕からそう伝えておきます」

 父が亡くなってから、わたしの家族は母だけになってしまっていたけれど。彼との結婚で、楽しい家族が一気に増えそうだ。

「でも、式を挙げるのはパパの一周忌が済んで、わたしが高校を卒業してからね。希望としては、やっぱり六月かな。新宿にね、ウチのグループが所有してる結婚式場があるの。式はそこで挙げたいな」

「〝六月の花嫁(ジューン・ブライド)〟ですか。いいですねぇ……」

 ――わたしは、彼と初めて出会った夜のことを思い返していた。 

「――ねぇ桐島さん、覚えてる? わたしと貴方が初めて出会った夜、わたしが言ったこと。『貴方も次男だから、わたしのお婿さん候補に十分当てはまる』って」

「ああ……。そういえばあの時、そんなことおっしゃってましたね」

 彼は覚えていてくれたのだ。わたしがあの時、何気なく言った一言を。

「僕は忘れてませんでしたよ。あの言葉のインパクトはスゴかったですから。特に、意識している女性から言われると」

 彼は照れ臭そうに、頬をポリポリ掻いていた。

「あの時は候補の一人でしかなかったのにね。まさかホントに、貴方がわたしのお婿さんになってくれる日が来るなんて、あの時は思ってもみなかった」

 ――あの一言を発した夜から十四ヶ月後、それは現実の話として、わたしと彼との結婚準備は進んでいくこととなった。