「ありがとうございました。では。」
──ガチャリ
「ただいま」
私が家に入ると、カチャカチャと足音がして、フワフワの大型犬がお出迎えをしてくれた。
あまりこの家は好きじゃない。無駄に広くて、でも中身は空っぽ。
昔はお父さんが小さな会社の経営者で、会社も上手く行っていて、近所ではそこそこ裕福だった。
けれど、経営が傾いてきてから、ストレスからかお父さんはギャンブルにのめり込むようになり、とうとう大量の借金を残して、女と家を出ていってしまった。
そのショックから立ち直れなかったお母さんは、男と遊んで暮らすようになり、あまり家には帰ってこない。
だから、この家には、いつも私と愛犬のリリ、時々しか帰ってこない弟の零しかいない。
私達の心の支えは、リリだ。まだ家が幸せだった頃にふらりと家にやってきた、ゴールデンレトリバー似の大型犬。人間の言葉をよく理解してくれる、賢い子だ。
「リリ〜。今日もかわいいね〜。零は?」
くぅ〜ん
「ああ、いないのね、今日も。どこに行ったんだか」
なんか、毎日三人分の食事を作っているのが虚しくなってくる。
「さっさとご飯食べて寝ようね、リリ」
わん!


