楽仁が歩いてくるのを見つけると、主は助けを求めるように視線を寄越してきた。

軽く睨み返して、少女に声を掛ける。

「美玖様。うちのアホな主がすみません。どうせデリカシーの無い発言でもしたのでしょう?」

『アホな主』のところで鋭い視線を感じたが、知ったことではない。

殆どの人間に有効なその鋭い視線は、自分には効かないのだ。

小さい頃から、お気に入りのおもちゃを取られるとギロリ、ロイの散歩に行けなければギロリ。

泣きもせずに睨んでくる、恐ろしい幼馴染みだから、もう慣れてしまった。

そんなことより。

「ごめんなさい、ごめんなさいぃ…」

突然誤り始めた彼女にハンカチを渡し、涙を拭いてもらう。

幸い目は腫れていないようで、赤くなっているだけだ。