今宵、君と、あの場所で。

周りのバイクはうるさいが、この車は浮いているかのように静かだ。

「あの、流星さん。さっきの煌夜って…?」

さっきから気になっていた、煌夜という言葉。

「ああ、そっか。知らないんだよね。煌夜は、年に一度、この時期に行われる凰雅の総会の前夜祭のことだよ。まぁいわゆる暴走だよね」

まぁ、で済まされるところが恐ろしい。

「凰雅ってそんなに大きな組織なんですか?」

「あ…、本郷組の傘下組織だよ」

「本郷組…」

本当に流星さんは関係ないのだろうか。

たまたま、名字が同じで、

たまたま、『若』と呼ばれる存在で、

たまたま、こっちの世界の住人、

なんてこと、ある?

「流星さん、ホントのこと、話してください。私には流星さんが分かりません」

「知ってしまえば、もう後戻りはできない。美玖を縛りたくないんだよ…」

それは認めたということでいいのだろうか?

「そうですか。それほど重大な秘密を彼女に隠しておくと」

責めるように言うと、流星さんは窓の外に目を向けた。

「ちょっと、話をしていいかな?俺の初恋の人の話。ある日、突然会えなくなった、大好きな人の、話」

「はい。聞くだけで良いのなら」

遠い目をして、彼は話し始める。

「俺の、一目惚れだったんだ。俺が当たり前だと思っていた闇とか媚びとかがなくて、無邪気で。いっつも走り回ってた。俺より頼りがいがあったよ。小さい弟を連れてね。友達がいなかった俺に、突然『友達になろうよ』って言ってきたときは驚いたけどね」

そこで、彼は私の目を見つめた。

「あのとき、俺は一生をかけてこの人を守ると誓ったんだよ」

その瞳の奥に、私に語りかけるような表情が潜んでいる。

「俺は、本郷組若頭、本郷流星。現組長の長男だ」