僕は悠希から夏鈴の事を聞いた。

 病気だった事、入退院を繰り返してきた事、泣いて謝っていた事、告白を断った理由とあの頃から今まで僕を好きでいてくれた事、そして……亡くなった事を。

 その事を悠希は泣きじゃくりながら僕に話した。もっと早く言うべきだったと悔やんでいる。

「ありがとう、話してくれて」

 泣きじゃくる悠希の手をそっと握ると、悠希も僕の手を握り返してくれた。

 不思議と悲しくはなかった。

 あんなに仲良かった夏鈴。

 大好きだった夏鈴。

『いつも一緒にいてくれてありがとう。これからもよろしくね 夏鈴』

 あれはクリスマスにプレゼントを貰った時のメッセージだったっけ……

 女子から初めて貰ったプレゼント。

 夏鈴からは初めてをたくさん貰った。

 だから、夏鈴はこれからたくさんの事を分かち合うであろう僕と悠希の邪魔をしたくなかったんだと思う。

 僕はもう一度、悠希に礼を言うと、大好きだよと呟いた。

 悠希と駅で別れ家に帰った僕は、押し入れの中からバスロッドとリール、ルアーを取り出した。

 久しぶりに釣りに行こう。

 あの日、夏鈴と一緒によく行っていた池。

 何投か目でバスが釣れた。

 小さな小バスだった。

 僕はバスから針を外すと池へとリリースした。

『さようならぁ』

 夏鈴の声がどこからか聞こえてきた様な気がした。

 空がだいぶ暗くなってきている。

 僕は隣市の灯りと薄墨を流したような空の色が混ざり合う空を見上げると、遠く彼方に星がきらりと光った。

 失った幸せは戻らない事を君は教えてくれた。だから僕は悠希を大切にしていこう。

「さよなら……夏鈴」

 小さな声で呟く様に言った僕はゆっくりと家路へと歩き始めた。