その一件があってからも、相変わらず橘くんはマスクを手放すことはなかった。


私の前にいるときを除いて…。



「ねぇ、今なら誰もいないよ。チューしよ」

「神聖な図書室で何考えて…―――」

 彼が言い終わらないうちに、私は彼のマスクを素早く下げ、露わになった彼の唇にキスをした。

彼は赤い頬をさらに赤く染め、両手でその顔を覆った。


「秋川さんの前だけだからね…」



私と橘くんの図書当番の日が、私たちの逢瀬の時間になっていることは、誰にも秘密なのだ。