改札を通り駅から出ると、そこはO市とは比べ物にならないくらいの煌びやかな光で溢れていた。この時期の、この時間帯にここに来たのは初めてということもあり、僕ら二人は少しの間、その光景に魅入っていた。

「とても綺麗ね」

 掛川はその光に目を奪われ嬉しそうに微笑んでいる。僕には掛川のその笑顔がとても眩しく、彼女があの頃の少女に戻ったかのように見えた。

 しばらく掛川に見蕩れていたが、掛川が駅のすぐ側にある公園へと僕の手を引っ張り誘っていった。

 普段は買物客や会社勤めの人たちの憩いの場となっているこの公園も色とりどりのイルミネーションで飾られており、どこも幸せそうなカップルでいっぱいだった。

 あの頃もこの公園でたくさんお喋りをしてたい焼きを食べたけど、小学生でデートする時間も早かったせいか、こんなにカップルが肩寄せあう姿はほとんどなかったし、こんなにも目も絡むようなたくさんの光に満ち溢れてはいなかった。

「たい焼き屋さん……閉まってるわ」

 掛川は残念そうに呟いた。時計を見ると午後七時半過ぎ。ちょうど夕ご飯を食べるにはいい時間だ。

「何か食べに行く?」

「肉まんが食べたい。」

「中華?」

「違うわ、コンビニの肉まんが良いの」

「コンビニの?」

 僕は掛川のリクエストに驚いて思わず聞き直した。そんな僕の反応に、掛川は少し恥ずかしそうに俯きながら、

「たい焼きの代わりに……公園で食べるの」

 そう言うと公園の向かい側にあるコンビニへと歩きだした。僕も慌てて掛川の後を追い、隣に並んでコンビニへと向かった。

 コンビニで肉まんと暖かい飲み物を買い、公園の空いているベンチに座ると、掛川は早速、コンビニの袋から肉まんを取り出し僕に手渡した。それから自分の分も取り出し、小さな口でぱくりと肉まんを一口食べると、熱いっといいながら、はふはふなっている掛川に、

「そりゃ熱いよ」

 笑いながらそう言うと、僕も肉まん一口かじりついた。

「あっつ」

 肉まんは思った以上に熱く、思わず口から出しそうになった。今度は掛川が僕を見て笑っている。

 肉まんをふぅふぅと一生懸命冷ましながら食べている。そして、食べ終わると僕の方へ顔を向け、

「美味しかったね」

 そう言って笑った掛川は、とても可愛らしかった。

 それから僕らは、公園の中のイルミネーションを楽しみ、二人で写真を撮ったり、ベンチに座ってたくさんお喋りをした。まるで、あの頃のように。会えなかった、話せなかった時間を埋めるように。

 しばらく話していると、あっという間に時間が過ぎていき、気がつくと掛川が帰る時間が近づいてきていた。僕は実家へと帰れば良いけど、掛川はO市まで帰らなければいけない。

「夕食は、肉まんで良かったの?」

「うん。例えばお洒落なお店で美味しいご飯食べるのも良いかもしれない。でも私は、それよりもこの公園であなたと並んで座って食べたかったの」

 掛川は僕の方へ微笑み、そして、その視線を少し遠くへ向けた。

 僕はそんな掛川の横顔をじっと眺めている。

 少しつり目の女の子は、ふっと伏し目がちになり、優しく微笑んだ。

「あなたともう一度、あの日のデートがしたかった。もちろん、全て同じようにはできないと思っていたけど。
 兎のオブジェの前で待ち合わせして、一緒に電車に乗って、ぎゅっと手を繋いで歩いて、この公園でたくさんお喋りして、たい焼きを食べて……たい焼きじゃなくて、肉まんになっちゃたけど」

 ふぅ小さなため息をつくと、また少し遠くの方へ視線を送った。

「例え……もうあなたの心の中に私がいなくても良いの。こうやって、最後の思い出にあなたの隣で過ごすことが出来たから」

 違う……

 掛川は、僕の心をこんなにも……

 僕の独り善がりのせいで……

 僕は……

「ありがとう、素敵な思い出に……」

 僕は掛川の言葉を待たずに、彼女の体をぎゅっと抱きしめた。愛おしかった。僕の中の掛川が、こんなにも大きな存在だなんて……

 掛川の体が強ばったのが分かる。だけど、それも一瞬で掛川の両手が僕の背中を優しく包み込んでくれた。