(掛川忍side)

 午後五時五十分。

 駅前にある兎のオブジェ前で私は彼を待っている。

 駅前はイルミネーションで綺麗に飾られており、光のトンネルではカップルが仲睦まじくツーショットで写真を撮ったり、改札口ではいまから出掛けようとしている人たちや、帰ってきた人たちで溢れている。

 しかもクリスマス・イブということもあり行き交う人たちが、みんな、とても幸せそうに見える。

 長く連絡をしていなかったのに、一方的に出したメッセージ。

 既読がついていたから、メッセージは読んでくれていたのは分かった。でも返事は来なかった。

 来るのか来ないのかも分からない。

 でも、必ず来てくれると思う。根拠なんてないけどそう思っている。

 昨日、学校前のバス停で、偶然、目があった時にはすっと視線を逸らされてしまったけど。

 彼とやっと並んで歩けると思っていたのに、会えない日々が続き、連絡も少なくなり、いつの間にか、途絶えてしまった。

 なんでこんな風になってしまったんだろう……

 もっと積極的に話しかけたり、会いに行けばよかったんだろうか?

 彼と会えなかった年月。再会できて嬉しかった反面、怖かった。食事に行ったり、遊びに行ったりしたけど。本当は迷惑だったんじゃないかって。そう思う自分がいた。

 それに、もうすでに彼の心の中に私なんていないのかもしれない……

 思考がすぐにネガティブな方に傾いてしまう。

 そんなことを考えていると、駅前にある時計が午後六時十分になった。

 来ない……

 私は涙が出そうになるのを必死で堪えていた。そんな時、こちらに向かって駆け寄ってくる人影が視界に入ってきた。

 彼だった。

 彼ははぁはぁと息を切らせながら、私の方へ走ってくる。

 私は堪えていた涙が、ぽろぽろ、ぽろぽろと溢れ出てくるのを抑えきれなかった。

 嬉しかった。来てくれると思っていたけど、思っていたんだけど、実際は、不安で不安でしょうがなかった。

 不安と心配で押しつぶされそうだった。来てくれなかったら本当に彼のことを諦めなきゃならないと思っていた。

 そんな私を見た彼は慌てた様子であたふたしていたが、

「ゴメンな」

 と、一言謝るとハンカチを渡してくれた。

 私はハンカチを受け取り涙を拭きながら、涙でぐちゃぐちゃになった顔で彼に精一杯微笑んだ。

 すると彼も優しく微笑み返してくれ、もう一度、ゴメンなと言った。

 しばらく広場にあるベンチに二人で座り、私が落ち着くのを待つ間、道行く人たちが、私たちの方をちらちらと見ているのが分かった。

 クリスマス・イブに、喧嘩をして泣いちゃってなだめられていると思われたのか、別れ話のもつれで泣いているなどと、勘違いされているのだろう。

 私は自分が落ち着いたのが分かると彼にもう大丈夫と伝え、ベンチを離れ改札へと向かった。

 ホームでは至る所にカップルたちが、寄り添い立っていた。

 そんなカップルたちを見ていると、私たちもカップルに見えるのかなと思い、顔が火照ってくる。

 ふと彼の方を見上げると、マフラーで顔の半分が隠れてしまっているけど、学校で偶然出会った頃の長かくてぼさぼさだった髪は短く整えられている。そして、二重の少したれた目で、ホームの先を見ていた。

 やっぱり、今でも私はあなたのことが大好きよ。

 そんな私の視線に気がついた彼が、私の方へ向いてくれた。

「どうした?」

「ううん」

 私は顔が火照って赤くなっているのを誤魔化すように、少し俯いた。

「寒くないか?」

「大丈夫」

 そんなやり取りをしているうちに、相変わらず、微妙なイントネーションでホームへ電車が入ってくることが放送された。

 電車の扉が開くと今度は彼が先に乗り、私に行こうと手を差し伸べてくれている。私は彼のその手をしっかりと握り電車に乗ると、目的の駅に着くまでの間、私たちは手を離さなかった。