*



「んっぎゃー!んぎゃー!ばぶー」



 うわー。眩しい。

 俺はあまりの眩しさに目を顰めた。


 ここは何処だ?

 柵のような物に囲われている。


 なんだ?

 右手がやけに温かい。

 

 右手で何かを握り絞めているようだが首を動かすことが出来なかった。どうしたものかと考えあぐねいていると上から誰かがのぞき込んでくる。


「ママー、パパー。愛ちゃん目を開けたよ」

「あら、ホントね。初めましてあなたのママとパパよ」


 え……。

 ママ?パパ?……。

 愛……。

 愛と呼ばれた。

 愛を求め、愛して欲しいと願い続けた俺の名前が愛……。


 名前にも驚いたが目の前で俺をのぞき込んでいる子供達の顔を見て思わずフリーズした。俺を最初にのぞき込んできたのは、驚くことに少し大きくなった蓮と唯だったのだ。


 蓮?唯?


 その後、二人の声を聞いてのぞき込んで来たのは凰雅と芹花。


 それにしても、ママとパパって?

 何かを握り絞めたままの右手を蓮が持ち上げたことで自分の右手を確認する。そこには蓮の指を握り絞める、小さな赤ちゃんの指が見えた。

 これは自分の手なのか?

 右手に力を込めると蓮の人差し指を強く握りしめることとなり、蓮が嬉しそうに頬を緩めるのが見えた。




 どうして……。





  ***

 一週間後。

 俺はあの時、トラックに引かれて死んだはずだった。それなのに目覚めたら芹花と凰雅の子供として転生していた。二度目の転生は人間なんだなと、一週間が過ぎた今、やっと冷静になっていろいろ考えられた気がする。しかし、俺の前世での記憶は消えつつある。すくった水が指の隙間からこぼれ落ちるように日に日に記憶が薄れていく。

 それにしてもこれは俺の願望が夢になって見せているだけではないのか思う。都合がよすぎるのだ。

 毎日飽きもせず俺のいるベッドの柵に身を乗り出しのぞき込んでくる蓮と唯、それに凰雅と芹花。






 俺は……なれたんだ……本当の家族に……なったんだ。






 言葉を喋ることが出来ないため俺は笑顔で家族に答える。

 ここに転生できて良かった。

 またみんなに会えて良かったと。

 「キャッキャッ」と笑ってみせると芹花達が笑ってくれる。なんて幸せなことか。前世での記憶が消えてしまったとしても、俺の罪が消えることはない。俺はこの罪を背負って生きていく。それでもほんの少しだけ……この家族の元で幸せに暮らすことを許して下さい。

 そう神に願った時、脳に直接響く声が聞こえた。



『幸せにおなりなさい』


 
 慈悲溢れる優しい声に、瞳から涙が溢れた。



 幸せになりたい。



「ママー、愛ちゃんが泣いてるよ」

 声を出さずに泣く俺を芹花が優しく抱きしめてくれた。

「大丈夫よ。あなたには私達家族がついているわ。何も心配いらないのよ。みんなあなたを愛している」

 俺の心の声が聞こえているかのように話しかけてくる芹花。



 ああ、温かい。



 どうか俺の家族に幸多からんことを……。



 そう願うと、俺の中にあった前世の記憶は全て消えたのだった。
 





      *fin*