そこで、俺は現在に意識を戻した。

 体中が痛い。そっと瞼を開き部屋を見渡すと、外から数人の人間の声が聞こえてきた。それに混じり主人の怒鳴り声も聞こえてくる。何事だと耳をピクピクと動かし聞き耳を立てるが、玄関までは遠すぎて話はとぎれとぎれにしか聞こえない。


 引渡し……暴力……保護……。
 
 
 今日は特に主人の機嫌が悪く殴られ続けていたため、疲れきった体はもはや言うことを聞かない。体を床に伏せたまま、ピクピクと動かしていた耳を伏せ、目を閉じた時、聞きなれない人間の足音が自分のいる部屋の前で止まった。

 ガチャガチャとドアノブが音を立て扉が開くと、数人の人間が入って来た。

「なんてひどい」

 口元を押さえながら人間が近づいて来る。威嚇してやりたいがもうそんな力は残っていない。俺はされるがまま人間に抱かれ外へと出た。外は真夏の太陽が照り付け一瞬で汗が噴き出してくる。この家にやって来て初めて見る太陽はギラギラと輝いていて肌がヒリつくようだった。

 外を出てすぐに俺は車に乗せられた。車が動き出すと、優しい揺れに眠気が襲ってくる。俺は瞼を閉じると眠りに落ちていった。次に目を覚ますと見知らぬ場所へとやって来ていた。遠くから沢山の犬の声が聞こえてくる。

 これから俺はどうなるんだ?そう思った時、目の前に水と食べ物がおかれた。数日ぶり見る食料を前に俺はそれを貪欲に食らう。

 食事を食べ終え、口の回りに着いた食べ物を嘗めとりながら見上げると、人間がこちらを見つめ、何かを確認している。それを見つめていると後ろから違う人間が俺の体を抱き上げ、かごの中に押し込めようとしてきた。

 何をするんだ?

 俺は後ろ脚を強くけり、腹部に回された人間の腕に嚙みつこうとしたところで、悲鳴と共に人間が手を離した。

 ここから逃げ出さなければ……。そう思った俺は少しだけ開いていたドアの隙間へ体を滑らせると外へ出るための窓を目指す。外は相変わらず熱いようで窓越しにも太陽がギラツイテいるのがわかる。

 窓枠に足をかけアスファルトの上に降り立つと、熱気が立ち込め肉球が焼け付く。

 真夏の太陽に照らされ続けたアスファルトは凶器に近い。だからといって怯んでいる場合ではない、とりあえず逃げなければ……。

 熱せられたアスファルトを蹴り走り出すと、後ろから人間の声が聞こえてくる。

「逃げたぞたぞ!捕まえろ」と……。