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 アイドニア王国は、新国王の誕生に伴い、その名を改めアイドレイニアと国の名前を変更した。新王国の誕生に人々は胸を躍らせ、城下町では何日も前から祭りが始まり、楽しそうに酒を飲み交わす人の姿や、音楽と聴きながら踊る人々の姿があちらこちらで見られた。
 

 そして今日、花びらが舞い散る城のバルコニーから二人の男女が姿お現すのを、大勢の人々が今か今かと心待ちにしていた。



「セリカ、準備は大丈夫か?」

 そう聞いて来たのは私の大好きな人。透き通る青い瞳に金色の髪、軍服を模した詰襟の服に金の刺繍と金ボタン。いつもより派手なそれを着こなす美丈夫がこちらを心配している。

「オウガ、大丈夫よ。少し緊張しているけれど、あなたが隣にいてくれるもの」

「ああ、俺はずっとセリカの隣にいるよ。それにしても今日のセリカは花の妖精のように美しいな」

「メリルの力作よ。朝早くから張り切ってくれたから」

 セリカはメリルの手によって、綺麗に着飾っていた。デコルテの開いた水色のドレスは腰の部分からふんわりと広がったプリンセスラインで、華やかさと愛らしさがある。可愛らしすぎるそのデザインに始めは引いていたセリカだったが、周りにいた人達から似合う、似合うと何度も言われ選んでしまったのだが……。

「少し子供っぽくないかしら?」

「そんなことはない。セリカは何を着ても似合うよ」

 顔を近づけ見つめ合う二人に、側近たちは気を使っていたが、なにせ民衆を待たせている。どうしたものかと考えている所に、救世主が現れる。

「兄さん、二人の世界に入りすぎですよ。民衆の声が聞こえないんですか?みんな待ってます。早くしてください」

「すまない……」

 弟の言葉にばつが悪そうに頭をかくオウガと、顔を真っ赤にするセリカ。そんな二人を見守る側近たちは嬉しそうに微笑んでいる。

 そして救世主ことリアンの隣に寄り添い微笑んでいるのは、アリエント王国女王エリアノ陛下だ。

 そう、この二人なんと婚約を発表したのだ。いつの間に……と思ったが、戦争という国の窮地にやって来たリアンとその王が出会い魅かれ合う。自然なことだったのかもしれない。そして、そのドラマチックな話に貴族夫人や、平民達は頬を染め、二人の恋話しを綴った本がバカ売れしているという。

 これから両国をオウガとリアンの兄弟によって、結びつきは強固で確固たる物となり、国は安泰だと両国の民は喜んだ。

「さあ、兄さん行ってください。民衆が待ってます」

「ああ、行ってくる。セリカ」

 オウガはセリカに手を差し出した。セリカはその手に自分の手をそっと重ねてバルコニーへと向かう。すると二人の登場に歓声が上がった。