「そうか……」

 力なくそう言ったファルロの横から一人の男が前へ飛び出した。それはファルロの側近でいつもそばにいた宰相のドルクだ。地面を蹴り上げ、セリカに向かって飛びかかって行く。その手には短剣が握り絞められており、ギラリと光を放っていた。

 あいつは何を?

 そう思った時にはドルクは短剣を振り上げ、セリカに向かって突き刺そうとしていた。

「やめろ!!」

 ファルロがそう叫ぶのと同時に、オウガがセリカを庇う様に前へと飛び出した。


 何もかもが一瞬のことだった。

 ドンッという鈍い音と共にオウガが後ろへ一歩下がり、ドルクの持っていたナイフはオウガの胸に突き刺さっていた。

「オウガ!!」

 セリカが叫び声を上げ、オウガを抱き留めようとするが、セリカの力では受け止めきれず、一緒に地面に倒れた。

 セリカは何とか自力で起き上がると、オウガの胸に突き刺さったナイフに息をのんだ。

 私をかばって……。

 オウガ……。

 胸に刺さったナイフは心臓に達していて、心臓は鼓動を止めようとしていた。

「オウガ、ダメよ」

 セリカはオウガの頭を膝の上にのせると聖女の力を発動させるべく歌った。





 **~


 命を紡ぎ空へと舞う白き羽

 星の子よ生きなさい

 寄り添う魂よ

 よみかえれ

 あなたの幸せを願い、歌に乗せて歌いましょう


 **~



 セリカは自分の持っている聖女の力全てを使い歌った。
 

 オウガ嫌よ。

 もう一人にしないって言ったじゃない。

 私を守るって、幸せにしてくれるって言ったじゃない。

 死ぬなんてゆるさないんだから。