こんな時間に空砲が鳴り響くことは珍しい。空砲は戦いの始まりと終わりに一日一回ずつ鳴り響く。今は昼前でこんな時間に空砲が鳴るのは初めてだった。


「セリカ!!」

 焦った様子のオウガが戦場から戻ってきた。

 セリカは自分の腹部で交差されているファルロの手を振りほどくと、オウガの元まで走り出し抱きついた。その様子をファルロは苦虫を噛み潰したような顔で二人を見つめた。

「オウガ貴様はここで何をしている?先ほどの空砲は何だ?」

「殿下、こちらへお越し頂くのをお待ちしておりました」

 オウガの言葉は丁寧だが違和感がある。いつもなら騎士の礼で自分の主をもてなすオウガがそれをせず、ファルロと視線を同じにして話しを続けている。


「殿下申し訳ございません。拘束させて頂きます」

「なっ、貴様正気か?」

 オウガの後ろにいた騎士達がファルロを取り囲むようにして取り押さえ拘束した。特に暴れることもなく拘束されたファルロはその場に両膝をつき、オウガを見上げながら睨みつけた。

「オウガ説明しろ。これはどういうことだ?」

「殿下……ファルロ・リトアニー・アイド二ア。フィールド辺境伯夫妻を殺し、フィールド辺境伯領の民を殺し、この戦争を引き起こした罪により拘束した次第にあります。そして現在王城でも同様にファルガル陛下も拘束されている」

「父……王もか!!何故貴様がその様なことを?」

「あなた達は人を殺しすぎた。騎士も民も、もうあなた達にはついて行けない」

 これは……クーデターか?

 ファルロは力なく肩を落し地面をジッと見つめボソリと呟いた。

「アリエント軍はどうした?」

「アリエント王には一ヶ月前に話をつけている。この戦争も見せかけだけだ。アイド二アの王城に向かっているのもアリエント王、本人。今頃殿下と同じようにファルガル陛下もアリエント王に跪いていることでしょう」

 オウガの話を聞きながら肩を落としていたファルロの肩が震えだした。

 全ては運命は決まっていたのだ。

 まんまと嵌められた。

 俺を後方から前線におびき出し、王城に戻れないようにしたんだな。そしてここにアリエント王は来ていない。ずっと王城の近くでこの時を待っていたんだろう。父王がアリエント王に跪いている姿が思い浮かぶ。なんと無様なことか。あんなにアリエント王を馬鹿にしていたというのに。


「くくくっ……あはははは。最高だよオウガ、セリカ嬢も知っていたのかい?」

 ファルロに話をふられ、慌てた様子でセリカが首を左右に振った。本当に何も知らなかったのだろう。