瞳からあふれ出す涙を止めることができない。今はそれでもいいと思った。ここは私の安息の地、誰も来ないのだから……。しかしガチャリッという物音に後ろを振り返れば、そこに立っていたのはオウガだった。いつもは遠くからこちらを睨み見つけるだけの彼が、どうしてここにいるのか見当もつかない。

 オウガは私が泣いているとは思わなかったのだろう。目を見開きこちらをジッと見つめていた。

「オウガ何しに来たの?ここに近づく者を追い払うのがあなたの仕事なのに、あなたが近づいてどうするのよ。さっさと向こうに行きなさい」

 冷たく言い放てばすぐに離れると思った……それなのにオウガはその場から離れようとしなかった。

「セリカ様、これはどういうことなんですか?あの侍女は一体何をしたんですか?」

「何をしたかですって?あなたはずっと見ていたでしょう。それともあれは私の仕業だとでも?」

 いつもとは逆にセリカがオウガを睨みつける。その真っ赤な瞳は涙で濡れているせいか、ゆらゆらと揺れ、炎が燃えているように見える。

 オウガは表情を変えずにセリカへと近づくと、ギュッと握りしめられた手を取ろうとした。しかしセリカはその手を払いのける。

「なんのつもりですの?私に触れないでちょうだい」

 セリカは唇を噛みしめ一瞬顔を歪めたが、すぐにいつもの様に我儘で傲慢なお嬢様の仮面を貼り付けその場を後にした。