あの日の感動に打ち震えていると、オフィスの部屋にスマホの着信音が響き渡った。ディスプレイには芹花の名前が表示されている。凰雅は嬉しそうに通話ボタンをスライドさせた。そこから聞こえてくる芹花の声に胸を躍らせていたが、少しトーンの低い芹花の声に凰雅は首を傾げた。

「芹花?何かあった?」

「えっと、その……凰雅さんの声が聞きたくなってしまって」


 電話越しのその声が震えていて、凰雅の不安を煽った。凰雅は上着を掴むとタクシーに乗り込み芹花の家へと向かっていた。

 時刻はもうすぐ二十一時を過ぎようとしていた。さすがにこの時間に芹花を外に呼び出すことも、家に訪れることも失礼なため、芹花に直接会うことを諦める。それでも、少しでも近くにいたかった凰雅は、芹花の震える体を抱きしめることが出来なくても、それでも良いから側に行きたいと思った。凰雅はポケットからスマホを取り出し芹花に電話した。

「もしもし、凰雅さん?」

 先ほどより落ち着いた芹花の声が聞こえてきた。

「少し落ち着いたようだね?何があったか聞かせてくれる?」

「あの……凰雅さんが載っている雑誌を見たんです。何だか遠いいなーって、私と凰雅さんでは釣り合わないんじゃないかなーって……」

「あれを見たんだね。何も不安に思うことなんかないよ。それに、それは俺の台詞だよ。俺みたいなオジさんに、こんな可愛い彼女じゃ釣り合わないんじゃないかと……」

 現在芹花は22歳、凰雅は32歳だ。その年齢差は10歳。

 俺の言葉に重ねるように芹花が電話越しで叫んでいた。

「凰雅さんはオジさんなんかじゃありません!!」