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凰雅は自分のデスクで残りの仕事を行っていた。最近、何をやっても無気力な状態が続いていた。毎日目の前の仕事をただこなしているだけで、凰雅の世界はモノクロだった。しかし芹花と出会い世界の全の物に色が塗られていくようだった。
今世では『セリカ』に出会えないのではと思っていた。
会えないのなら、こんな世界どうでも良いと投げやりになっていた。
それだけ『セリカ』のことを思っていた。ずっと思い続けてきた。諦めなくて良かった。
あの日、たまたま通りかかった公園であの歌声を耳にした。あまりの衝撃に体が震え、電流が駆け巡るような感覚に俺は立ち尽くした。しかし俺はこの歌声の主を歌声が聞こえなくなる前に見つけ出さなければと走り出したんだ。
必ず見つけ出す。
そして見つけたんだ。
公園のベンチに座り歌う少女を……淡く光輝く少女は走ってきた俺を見つめて固まっていた。俺は自分が『オウガ』だということをすぐにでも話したかった。しかし、それを声にすることは出来なかった。『セリカ』を目の前にして、何も考えられない。言葉が出なかった。
セリカ……愛しいセリカ。
我に返る前に、体がかってに動き出し、そのまま芹花を抱きしめていた。あの時、芹花はよく何も言わずに俺に抱きしめられていたなと思う。普通なら平手打ちを食らっていても仕方のない状況だったはずだ。しかし俺は一人、『セリカ』に出会えた感動で体が震え、声すら出せない状態だった。そんな俺に芹花は言ったんだ。
「オウガ……」と。
『セリカ』も俺に気づいてくれた。そのことがとてつもなく嬉しくて頬の筋肉が緩むのを感じた。
凰雅はあの日のことを思い出し右手で口元を押さえ悶絶した。


