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 何度も何度も自分の名前を呼ぶセリカ様に、オウガは優しく微笑み耳元で囁いた。

「セリカ……」

 敬称無しで名前を呼ぶと、セリカの瞳から涙が溢れ出した。

「すみません。失礼でしたよね」

 慌てるオウガにセリカが嗚咽混じりの言葉を発する。

「ちっ……違っ……ヒック……もう、……そんな……風に、呼んでくれるっ……人っ……うえっ……いないって……思って……た」

 名前を呼んだだけで泣いてしまう、そんなセリカをオウガはギュット抱きしめた。この世界にセリカを敬称無しで呼ぶ近しい人達は全員いなくなってしまったんだ。

 俺が死ぬわけにはいかない。

 オウガは強くそう思った。

「オウガ……私は、あなたにまだ話していないことがあるの……」

 少し落ち着いたセリカ様の声が聞こえてきた。

 話していないこととは?首を傾げつつ、セリカの顔をのぞき込むと、セリカの瞳は綺麗な紫水晶のように透き通っていた。

「聖女の力は神からの祝福なんかじゃないのよ。世界の断りをねじ曲げ、人を治癒することには代償が必要なの。代償はその力を使った者の命、生命力を奪う……」

「なっ……それでは聖女の力を使い続ければセリカが死んでしまうのですか?」

「長生きは出来ないわね。この戦いで負傷者が多く出れば……」

 セリカはそれ以上何も言わなかった。

 そんな……。

 信じられない。

 それなら。

「フィールド辺境伯夫妻はそれを知って、王にセリカを渡さないと言ったのですね」

 コクリと頷いたセリカの瞳に涙の膜が張り、ゆらゆらと揺れだす。今にも涙がこぼれ落ちそうな瞳にオウガはキスを落とした。