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 あれからあっという間に一週間が過ぎ、元フィールド辺境伯領へと出立する日を明日へと控えていた。今日中に準備を済ませなければと、回りの人々は忙しそうに動き回っている。オウガもその一人で……今回の戦争の指揮を任されたのだ、忙しいのはしかたがなかった。

 今日もオウガは忙しそうね。

 部屋に訪れないオウガに、セリカの心は沈んでいく。こんな国よりオウガが心配なんて、国民や騎士達が知ったらどう思うだろうか?

 私は知られてもかまわない。だって私は傲慢でワガママな悪役令嬢なのだから。あの人を守れればそれでいい。もう大切な人を失うのは嫌だから……。

 夜になりセリカは部屋のバルコニーから月を仰ぎ見た。月は少しずつ円に近づいていて、もうすぐ満月のようだった。

「いつ見ても綺麗ね。あなたはいつもそこにいるけれど一人で寂しくないの?」

 セリカは友達にでも話しかけるように月に話しかける。

「私はもう一人になりたくないわ。オウガの温かさを知ってしまったから……オウガを好きになってしまったから……」

 そう呟いたとき、誰かに後ろから抱きしめられた。それは今一番会いたい人。


 オウガ……。


 いつからそこに?

 今の話聞いてたの?

 セリカは体が熱くなるのを感じ、同時にその場から逃げ出したくなった。素直な気持ちを聞かれたことが、とてつもなく恥ずかしくてセリカは俯いていた。

「セリカ様……俺もあなたが好きですよ。もうあなたを一人にはしません」

 オウガの優しい声が鼓膜を震わせ、しびれるような甘い感情が体の奥底からせり上がってくる。セリカはその甘いしびれに耐えられず、振り返るとオウガにしがみついた。

「オウガ……オウガ、オウガ、オウガ……」

 セリカは何度も何度も愛しい人の名前を呼んだ。