「オウガに何かしたら、ゆるさない」

 セリカはファルロに抱きしめられ、鼻先が付いてしまうほど顔を近づけられた状態で睨みつける。そこへ謁見の間からオウガが戻ってきた。

「ファルロ殿下……セリカ様……」

 唖然とするオウガに向かってセリカが手を伸ばした。

「オウガ!!」

 しかし、オウガはその手を取ろうとはせず、フイッと目を逸らす。

「……オウガ?」

 今度はセリカが唖然とする番だった。

 嫌だオウガ……。

 そんな顔しないで……。

 セリカはファルロの腕の中で暴れた。

 いい加減に離しなさいよ。

 力いっぱい腕に力を入れ、ファルロから離れようとしたところで、ファルロがセリカを更に抱きしめ耳元で囁いた。

「セリカ嬢そんなに暴れないで下さい。オウガがどうなっても良いのですか?」

 その言葉にセリカの肩がビクリッと跳ね、動きを止めた。

 この人は本気でオウガを殺そうとしているの?
 
 目を見開き固まるセリカを面白そうに見つめ、ファルロはセリカを抱きしめていた腕の拘束を解いた。セリカは急に自分の体が解放されたことでよろめき、その場に座り込みそうになった所を、オウガの腕によって救い出される。

 セリカはオウガの腕の中で安堵の溜め息を付いた。

 オウガ良かった。怪我も無さそう。

「セリカ嬢また遊びましょうね」

 ファルロは王子の微笑みで笑うと、セリカ達の前から去って行った。

 一体何だったの?

 急に現れて……。

 忠告?警告?それととも脅迫か?

 セリカはオウガの腕の中で考えを巡らせるのだった。