そんな事を思っていると、オウガはセリカをテーブルの椅子へと座らせた。セリカの前には美味しそうな朝食が並べられている。

 これは……。

「さあ、食べてください。セリカ様は少し痩せすぎですよ」

 そう言ってフォークを差し出されたが、セリカはそれを受け取るも食事に手を付けようとしない。それを見ていたオウガはセリカを警戒心の強い猫のようだと思った。

「大丈夫です。何も入っていません」

 そう言ってマフィンを一口かじって見せ、それをセリカに手渡した。

「…………」

 オウガのかじったマフィンを手渡され、セリカは固まる。人の食べた物を食べても良いものなのか?辺境伯令嬢として育ってきたセリカには分からなかったが、オウガの体に異変はなく安心して食べられることは分かった。

 食べたい。

 ここのところ何が入っているか分からない食事を口に出来ず、食べていない日が続いていた。もう限界だった。

 セリカは眼をつぶると「はむっ」とオウガの食べたマフィンにかぶりついた。

 口に広がる優しい甘さと、鼻に抜けるバターの香り。最高においしかった。あまりの美味しさに、セリカはいつも付けていた傲慢で、ワガママで、悪役令嬢という名の仮面を、うっかり付け忘れてしまっていた。