歌わなくなった聖女を手なずけるため、王や王太子はセリカの願いを何でも叶えた。

 そして次第に男達を侍らせる、あの状態がつくりだされたのだ。

 それというのも、美味しいものが食べたいと言えば毎日豪華な食事が部屋に並んだ。ドレスを一着しか持ってこなかったため、ドレスが欲しいと言えば毎日の様にドレスが届けられ、恋がしたいと言えば見目麗しい男達がやって来た。

 それをわがままな令嬢と言い出したのは周りにいた人々だ。

 それならとことんワガママになってやろうと思った。それが自分を守る術ともなっていた。回りになんと言われても良かった。

「傲慢、ワガママ、悪役令嬢、それでよろしくってよ。オーーほほほほ!!」

 王の顔が歪むほど散財してやる。わがままを言ってやる。傲慢な態度をとってやる。

 そうしてこの三年生きてきたんだ。

 まさか食事に媚薬やら精神の薬やらを入れられることになったのは誤算だったが……。

 そこまでして私を手に入れたいのか?

 自分たちの力でどうにかしようとは思わないのか?

 他力本願が過ぎるのでは?と思う。



 東屋で昔の事を思い出し、セリカの瞳が更に濃く赤く燃えるように染まっていく。セリカの回りの空気が怒りでゆらゆらと揺らめき、セリカの長い白銀色の髪がうねっている。
 

 これから私はどうすれば良い?

 味方のいないこの世界で……。


 「セリカ様……」


 後ろから声をかけられ、セリカが振り返ると、そこにはオウガが立っていた。


 あなたもきっと信じないのでしょう。


 セリカはオウガを睨みつけた。本当に睨みつけ罵り怒鳴りつけたいのはあいつらなのに、目の前にいるオウガに苛立ちをぶつけようとしている。完全に逆恨みだ。

「何しに来たの?あなたもあんな話、信じないのでしょう」

 グッと奥歯を噛みしめると体からブワッと怒りがあふれ出す。

「お前も思っているのでしよう?聖女なのだからその力を国のために民のために使えと……。ねえ、知ってる?聖女の力は、神が与えたもうた奇跡の力なんかじゃないのよ。これは悪魔からの死のギフト」


「悪魔……死?」


「昔から大きな力は災いを呼び、死を招き入れると言うでしょう。ことわりを逸脱する治癒の力には代償も伴う」


「代償とは?」