セリカは昼間過ごす特別室から逃げるように、中庭の東屋へとやって来た。

 ファルロ殿下……人の話を作り話ですって……。

 あなたがお父様とお母様を殺してくせに。

 誰も信じなかった。

 私の話なんて誰も信じない。

 味方になってくれる人はいないと思い知らされる。


 あの日、瞳の色が変わってしまってから一年、王城の一室に閉じこもり暮らしていた。何もする気力が起こらずにボーッとしていると、ファルロがやって来たんだ。

 聖女の力を使ってほしいと。

 セリカはあいつらのために聖女の力は使わないと決めていたのだが、考えがあった。

「ファルロ殿下も行かれるのですか?陛下は?」

「俺は行くが陛下は行かない。それがどうした?」

「…………」

「セリカ嬢のことは私が守るから……」


 
 守る……私を?

 それなら辺境伯領の人々を守ってほしかった。

 セリカの胸に怒りの炎がともる。

「分かりました」

 セリカはファルロと共に戦場へと向かった。

 


 そして歌ったんだ。癒やしの歌……。




 
 ではなく、呪いの歌を……。





 私の中にある怒りを溢れさせ全てを焼き尽くすような、この思いを全て込めて。

 
 人々の死を願い呪いの歌を歌った。


 私はこの国を滅ぼす悪女となる。


 しかし、私に待っていたのは絶賛の嵐だった。

 騎士達が泣きながら私に感謝の言葉を述べていく。

「聖女様ありがとうございました」

「聖女さま万歳!!」




 どうして……。




 この声には癒やしの力しかないのだとセリカは落胆した。

 ファルロを殺し、騎士達を殺し、悪女になろうとしたのに。

 ファルロはどうして生きているの?

 皆はどうして生きているの?


 それからセリカは歌わなくなった。