しかし、護衛についてみると噂は真実だった。

 傲慢で、ワガママで、悪役令嬢……その通りだった。

 目の前で行われていること全てに吐き気がする。俺が怒りで眉を吊り上げていても、高価な椅子に座り扇を使って口元を隠す聖女は、バカにしたような態度をとり続ける。更に俺が眉間に皺を寄せると、目の前の女は面白そうに目を細め口角を上げてくる。

 何が面白いのか。

 自分で言って作らせた料理には一切手を付けていない。

 男たちは二週間もすれば違うメンバーに交換される。それも皆高貴な貴族たちばかり……中には婚約者がいる者もいるとか。信じられない話だが、これを王は黙って見ているだけで、何も言わない。

 信じられなかった。

 間違っている。

 今も目の前でセリカが冷ややかに、サンドイッチを持った男に言葉を発した。

「あなたの手に持ったものなど食べられないわ」

 サンドイッチを持っていた男が寂しそうな顔をして、セリカを見つめている。

 一口ぐらい食べてやればいいものを……。しかし男はめげる様子もなく、違う食べ物をセリカの口元へと運ぼうとする。すると明らかにセリカの表情が変わり、セリカは眉をつり上げると扇を使って男の手を叩き、払いのけた。

 部屋がシンと静まり返り、ざわめきが広がっていく。

「だから、あなたの手に持った物など食べられないと言ったでしょう。ふんっ。興覚めですわ。部屋に戻ります」

 苛立ちを隠しもせず男を睨につけ、それだけ言うとセリカは立ち上がり扉へと向かって歩いてく。セリカ様が俺の前を通る瞬間、目線で合図してきた。付いてこいということなのだろう。護衛騎士の俺はセリカ様から離れることは出来ない。オウガはその合図に頷くと、ザワつく部屋を退出するため扉の前で一礼し、セリカの後を追った。



「オウガ!!私はここで少し休みます誰も近づけないで……。わかっているわね?」

 強い口調でセリカ様が言う。

 そこは部屋に戻る途中にある中庭の東屋。セリカはいつも男たちと遊んだ後、必ずここに立ち寄っていた。
 

 その時必ず俺の名前を呼ぶ。オウガ・ディスタール俺の名を……。