ファルロは自分の父である国王の視線の意味に気づくと、セリカの両親の前に立ち、剣の柄を握り絞め一気に引き抜いた。

 
 何をしようというの?

 チラリとファルロの方に視線をむせると、いつも優しい顔をしていたファルロの顔が醜くゆがんでいるように見えた。


 や……め……て……。


 声が……声が出ない。


 やめて、やめて、やめてーーーー!!!!

 
 心の中で叫ぶセリカ……。


 ファルロの剣がセリカの目の前でスローモーションのようにゆっくりと振り下ろされていく。しかし、剣が下ろされたのは一瞬だった。

 目の前に広がる惨劇に何が起こっているのか混乱する。

 どうしてこんなことを……。

 すぐに癒やしの……聖女の力を使わなくては……。

 急いでセリカが両親に駆け寄ろうとしたところで、後ろに控えていた騎士に両手を縛られ、布を口にかまされてしまう。

 離して……。

 お父様とお母様に癒やしの歌を!!

 「うーっ……う゛ーー!!」

 口に布を噛まされているせいで、声を出すことが出来ない。

 お願い誰か……。

 歌わせて……。


 お父様!!お母様!!

 ファルロ様!!

 ファルロと視線がぶつかるも、すぐに視線は逸らされた。



「う゛ーー!!う゛う゛っーーぐっう゛ーー!!」



 いやーーーー!!!!

 セリカの瞳から涙が溢れ出す。

 一番助けたい人を助けられない。

 お願いよ。

 歌わせて。

 少しで……一瞬でいいから。


 両親の体が血に染まっていく。


 いや……いや……いやーーーー!!!!


 お父様、お母様死なないで一人にしないで。


 私を一人にしないで。


 騎士はセリカを引きずるようにして辺境伯邸から外に連れ出した。すると何故か外が真っ赤に染まっていた。今は夜、夕方でもないのに赤く染まる空に人々の悲鳴が響き渡っている。


 これはどういうこと……?

 セリカの瞳に映るのは火の海と化したフィールド領。

 炎が町を焼き尽くそうとしていた。

 逃げ惑う人々……。

 それを騎士達が追いかけ回しているのは……どうして……?

 次の瞬間、民を追いかけていた騎士が剣を振り下ろした。

 えっ……?

 どうして騎士が民を殺すの?

 目を見開き固まるセリカの横で、王がクツクツと笑い出した。

「聖女よ。良く見ておくのだ。私に逆らうとこうなる。お前の両親は本当にバカな奴らだ。素直に聖女を引き渡せばこんなことにならなかったものを……」


 私のせいで……。


 でも、どうして民達までも殺す必要が……?

「どうして民を殺しているのか?そんな顔をしているな?」

「う゛う゛っーー!!」

 涙を流し続けるセリカに、王は恐ろしく凶悪な顔で笑って見せた。

「お前から帰る場所を奪うためだよ。お前にもう帰る場所は無い。お前が生きれる場所は王城の中のみだ」


 
 そんなことのために民を殺しているの?

 私に帰る場所が無いと、それを知らしめるためだけに、こんなに沢山の人々を……。

 セリカは目の前で行われている非道な光景が信じられなかった。

 私のせいで皆が殺されてしまう。

 お願いだから布を取って、歌わせて!!

「ぐーーっ。う゛う゛っーー!!」