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 今日も王城の一室にてセリカが男を侍らせていると、そこに一人の訪問者が訪れた。ノックもせずに部屋に入って来たのは……。


「まあ、ファルロ殿下どうなさいましたの?この間の謝罪にでもいらしたのかしら?」
 
 セリカがクスクスとバカにしたように笑って見せると、ファルロは人好きのする笑顔でセリカを見つめてきた。

「セリカ嬢、この間は大変申し訳なかった。この通りです」

 そう言ってファルロはセリカに頭を下げた。ファルロ殿下のその行動に周りにいた人々は驚愕で目を見開いていた。

 それでもセリカの態度は変わらない。

「まあ、殿下が謝ってくださるならそれでよろしくってよ」

 何処までも上から目線のセリカに周りで見守る人々の額に汗がにじみ出す。相手はこの国の王太子ファルロ様なのだ。セリカの態度は不敬とみなされてもしかたがない。二人の様子を、皆が固唾をのんで見守った。

 しかし、ファルロ殿下は先ほどのセリカの言葉を、気にする様子もなく微笑んでいる?いや、楽しんでいるのか……。

 楽しそうに、クスリと笑っていたファルロが、真剣な様子でセリカを見つめてきた。

 ファルロ殿下は何を企んでいるの?
 
 様子を窺うセリカを見つめ、ファルロが王命を奉じた。

「セリカ嬢……。いや、聖女セリカ・アシュ・フィールド様。隣国の動きが活発化している。これから戦争になるかもしれない……。その時はあなたの力を借り……」

 ファルロが王命を奉じ終わる前にセリカは椅子から立ち上がると言葉を遮った。

「お断りしますわ」

「は……?」

 ぽかんとあっけにとられた様子のファルロの表情に、セリカは口角を上げ、もう一度告げた。

「お断りいたします」

「セリカ嬢あなたの聖女の力は神が与えたもうた奇跡の力、国のために使うためにある。それを拒否するのか?」

「いけませんか?なぜ私が国のために聖女の力を使わなければいけませんの?この国以外に聖女はいませんのでしょう?こちらだけ聖女の力を使うなんてフェアーじゃありませんよね?」

「フェアーだと……戦争にフェアーなんて言葉は存在しない。聖女の力を使ってでも勝てばいいのだ」

 ファルロの顔から笑顔が消え、怒りを露わにしてくる。

「貴様はこの国を、民を見捨てるのか?皆が死んでもいいのか?この国が滅んでも良いのか?」

「それをあなたが言うのですか?」

 そう言ったセリカの瞳が驚くほど赤く燃え、ゆらゆらと揺れていた。ファルロに対し、敵意……いや、殺意を抱いている。