離してよ、牙城くん。









「……なんで百々ちゃんがここにいんの?」









ふと、そんな聞き慣れた声が落ちてきて。


気づけばわたしを掴んでいた手から解放され、男は地面に倒れていた。



……殴った、んだ。

速すぎてわからなかった。





……いつもの優しい瞳じゃなくて、わたしを見る彼の視線は鋭かった。






「……が、じょうくん」


「言ったじゃん。この時間にはいるなって」





牙城くんは、……そう、淡路くんとおなじようにスーツを着ていた。


いっしゅん見たら、成人してるかと思うほど大人っぽい。




ふだんならきっとときめいてしまう。

だけど。




今日の、……土曜日の牙城くんはいつものように優しくなかった。