離してよ、牙城くん。




そっと、自分のカーディガンを彼に被せる。


そのうちこのカーディガンも雨に濡れてしまい、じゃまになるのだろうけれど、とりあえずの温もりになればいいと思った。



それをじっと見ていた彼は、はじめて口を開き、こう尋ねてきた。





『……なまえ、なに』


『えっ……』





掠れた声は、ちょっぴり低めで、安心感のあるトーンだった。


はじめて話してくれたことが嬉しくて、少しだけ動揺する。



……さっきまでの、視線の棘もなくなってる。





すぐに平常心を取り戻し、なんとかゆるむ頰をおさえながら、笑顔で返答した。




『……あ、アサクラ、モモです。……もも』


『……もも、ちゃん』





何度も小さく呟き、復唱する彼。

わたしも名前を聞くと、ガジョウくんという名だということがわかった。