離してよ、牙城くん。





決意を固め、声をかけるべく、口を開いたそのときだった。




……見たこともないほど綺麗な彼が、わたしをはじめて見つめた。


その瞬間、彼は目を見開き、口を開けて何かを言おうとしたけれど……、唇の傷が痛かったのか、何も言葉を発さなかった。



ただ、鋭くわたしを睨む瞳は、棘だらけで。

近づくな、というオーラを放っていた。



七々ちゃんのせいで慣れてるとは言っても、さすがに彼の視線は怖かった。


ふつうならば、足がすくんで動けなくなると思う。





それなのにすぐに引き下がらなかったのは……、どうしてか、彼に、興味が湧いてしまったから。





『雨……、濡れちゃいますよ』





もう、濡れてしまっているけれど。


いまにも消えそうな、儚い彼を、どうしても見て見ぬ振りはできなかった。