離してよ、牙城くん。




クスクスと嗤う景野さんは、悪意だらけの人間だ。



わたしの傷を、深く深く抉ってくる。

痛みを知り尽くしているかのように。



わたしを、牙城くんの温もりから誘い出すように。




こんな人の言うこと、信じちゃだめ。


心の奥底ではわかっているのに。

七々ちゃんと牙城くんのことになると……、どうしても平常でいられなくなる。





「だけどなあ。そんな完璧女のナナにも、ひとつだけ、恵まれなかったものがあるらしい」






聞きたくない。


耳が言葉を欲しがるくせに、脳は危険信号を鳴らしていて。




残る理性が後者を信じようとするのに、縛られているせいで耳を塞ぐことができなくて。