離してよ、牙城くん。





『こっちはぜんぶ、わかってんだよ。
百々ちゃん、場所言え』




あの夜、牙城くんの危険さを目の当たりにしたあの夜のように怒りをあらわにする牙城くん。



はじめて、牙城くんが恐ろしいと思った。

感情の表現は控えめな牙城くんが、こんなにも怒るとは考えもしなかった。



これ以上、……牙城くんを不機嫌にさせられない。



観念して、いまいるところを口にする。



「……旧校舎、の、空き教室」


『わかった。いまから行くから、百々ちゃん、泣くなよ』




ダメだよ。もうすぐ授業はじまるのに。


散々、彼にちゃんと受けなさいって言っていたわたしのせいで、サボるなんて。





わたしは大丈夫、そう言おうと思ったけれど、どうしてか牙城くんにいますぐ会いたくて涙をポタポタ落としながらうなずくことしかできなかった。