離してよ、牙城くん。





「わたしは……っ、中学のときから好きなのに! 牙城くんがうちの高校に転校してくるって聞いて嬉しかった。それなのに……!」


「……」



「牙城くんのなんにも知らないくせに、朝倉さんが、なんで……っ」





わっ、と泣き出した佐藤さん。


本気で牙城くんが好きなのが伝わってきて、心が痛かった。



────牙城くんの、なんにも知らないくせに。


その言葉も、心にぐさっと刺さってしんどかった。






たしかに、わたしは牙城くんのとなりにいるのに、なにもしらない。



特に、彼の過去や、とりまく環境すらもわからない。






わざと、踏み込まなかった。


あんなにも強く、名を轟かせ、人望だってある牙城くんの弱さを、わたしが守りたかったから。