「……僕が、ですか」
「あぁ。」
……いや、そんなはずがない。聞いた瞬間に私はそう思った。
まだ入って来て間もない木嶋さんにそんな重大な資料を誰も作れと言うわけがないからだ。
ていうかそもそも、木嶋さんの教育係である私に相談が無くそんなことをされるわけが無い。しかも木嶋さんの事だから、何かあればすぐ私に話してくるはずだ。
私はそう確信すると、社長に意見を申すべく木嶋さんの少し前に出て口を開いた。
「社長、木島さんはまだ新じ」
しかしそこまで言いかけた時、木嶋さんが唐突に私の手を軽く引いた。
そして、私と入れ替わるようにして前に出た木嶋さんとすれ違う少しの瞬間、不意に「ありがと」と耳元で囁かれた。



